戦国の火縄銃は30秒で1発|長篠の戦いの革新

戦国の火縄銃は30秒で1発|長篠の戦いの革新

戦国時代の火縄銃は、一発を撃つのにおおむね 20〜30秒かかったと考えられます。

現代の感覚でいえば、パソコンが固まって再起動を待つくらいの“長さ”。その間に敵が迫ってくるのですから、前線の緊張は相当でした。

それでも各大名はこの新兵器を取り入れ、戦い方そのものを更新していきます。

とくに 天正3年(1575)長篠の戦いでは、織田信長が「30秒の隙」を埋める運用を行い、戦局を大きく動かしました。

本記事では、火縄銃の基礎、長篠での戦術、現代兵器との比較を、史料に照らしつつ解説します。

火縄銃の背景と基礎知識

火縄銃の伝来と初期の衝撃

1543年、種子島に漂着したポルトガル人が火縄銃を伝えました。

弓矢中心の戦闘に慣れた武士にとって、 火薬で弾丸を飛ばす仕組みは“未来兵器級”のインパクトでした。

ただし普及は段階的で、各地の技術・補給体制の成熟に左右されたと考えられます。

高価すぎる新兵器

火縄銃の価格は侍一人の年間収入(米)に匹敵したとされ、現代換算では 数十万〜約100万円相当と推定(換算方法に幅あり)。

当初は 選抜配備が中心で、全軍への一律配備には時間を要しました。

撃つまでの流れと弱点

  1. 筒口から火薬を入れる
  2. 弾丸(鉛玉)を込める
  3. 詰め木で押し固める
  4. 火皿に点火用の細かい火薬を盛る
  5. 火縄を火蓋に合わせ点火

ここまでで平均 20〜30秒。現代比喩なら カップ麺の待ち時間の途中で敵が突撃してくるイメージ。さらに日本の湿気・降雨環境では 不発リスクが高く、安定運用は難題でした。

射程と命中

有効射程はおおむね 50〜100メートル程度。個々の狙撃より、 横隊の同時射撃交代射撃で“面を押さえる”運用が中心でした。

長篠の戦いと「30秒の隙」を埋めた戦術

信長の発想と交代射撃

天正3年(1575)の長篠合戦で、織田信長はおよそ 3,000挺の鉄砲を配備し、馬防柵の背後に鉄砲隊を配置。

交代射撃で装填の30秒をカバーしました。

いわゆる「三段撃ち」は後世の脚色とする説もありますが、 火力を途切れさせない仕組みが実施された点はおおむね妥当と考えられます。 (現代比喩:充電の遅いスマホを複数台ローテで使う発想)

前線兵士の心理

足軽鉄砲兵にとっては、装填中の30秒が生死を分ける時間。

敵が突撃する中での再装填は、 現代で言えば格闘ゲームの硬直時間中に攻め込まれる感覚に近い。

ゆえに馬防柵槍足軽の近接防護と組み合わせて初めて本領を発揮しました。

経済・補給への波及

継続的な鉛弾火薬供給が不可欠で、鉱山開発や輸入ルートが整備。

鍛冶職人の需要が高まり、 鉄砲鍛冶の町が形成された地域もありました。

兵器の効果は性能だけでなく、 サプライチェーンの整備に依存していたといえます。

現代との比較と雑学

  • 発射速度:火縄銃=30秒で1発。 現代小銃=理論上約600発/分(実戦は制御のため抑制)。差はおよそ300倍
  • 射程:火縄銃=50〜100m。 現代小銃=500m以上が一般的。
  • 天候耐性:火縄銃=湿気・雨に弱く不発が増加。 現代銃=設計上の耐候性は高いが、泥や整備不良で作動不良は起こり得る。
  • コスト感:火縄銃=侍の年収級。 現代銃=国家調達前提で単純比較不可。評価は総保有コストで。

「戦国に現代銃があれば無双?」――弾薬・補給・整備が無ければ数発で終わり

例えるなら充電器を忘れた最新スマホ。性能と同じくらい維持できる仕組みがカギです。

まとめ

火縄銃は“速射”に向かない武器でしたが、集団で連続運用する戦術と補給の設計で 決定力を持ちました。

長篠で信長が示したのは、兵器の弱点を運用で最適化する思考です。

現代基準では非効率でも、当時は「30秒の一発」が戦局を左右しました。

もしあなたが その場にいたら――その30秒、どう凌ぎ、次の一発へつなぎますか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 火縄銃は1分に何発撃てましたか?

熟練兵でおおむね2〜3発。標準は30秒で1発前後と考えられます(天候・熟練度で幅)。

Q2. 長篠の「三段撃ち」は実在?

厳密な三列固定は諸説あり。ただし交代射撃で火力の連続性を確保した点は おおむね妥当とみられます。

Q3. 雨の日も撃てたの?

湿気に弱く不発が増えました。雨具や火蓋の工夫はあっても万能ではなく、 運用が制約されたと考えられます。

Q4. 当時の価格はどのくらい?

侍の年収相当との記録があり、現代換算で数十万〜約100万円と推定(換算法に幅)。

Q5. 有効射程は?

おおむね50〜100m。個々の精密狙撃より集団射で“面を押さえる”運用が主でした。

参考文献(出典候補)

  • 渡辺信一郎『鉄砲と日本人―戦国の火縄銃』講談社学術文庫
  • 小和田哲男『長篠合戦と武田勝頼』中公新書
  • Stephen Turnbull, The Samurai and the Gunpowder Weapons of Japan (Osprey)